今回は、日本型ビジネスを成長させる有望な取り組み・考え方としての「カスタマー・サクセス」についてご説明いたします。
「カスタマー」とは当然「顧客」のことで、「サクセス」は「成功」ですので、「カスタマー・サクセス」は「顧客の成功」を意味します。なので、この訳語をそのまま日本語の「顧客の成功」として採用しても全く問題ないような気がするのですが、昨今注目されている考え方として紹介する場合、「カスタマー・サクセス」とカタカナで表現されることが多いようです。
背景
それよりも、なぜ「カスタマー・サクセス」あるいは「顧客の成功」が企業が取るべき戦略として重要視されるようになって来たのかを今一度振り返ってみたいと思います。
まずもって、市場が成熟し競争が激化していく際にそもそもの法則のようなものがあると思います。日本の場合は特に人口減少や少子高齢化の影響が大きく、顧客の奪い合いのような状況があらゆる産業において顕著に現れている訳です。そうなると各企業はより良い製品を開発し、競争力のある価格で販売するようになる訳ですが、より多くの顧客に販売しようとしても顧客数自体が絶対的に飽和(あるいは減少)している訳ですから、それだけでは収益を確保することが難しくなります。そのためより顧客に重点を置いた対策を取るようになるということです。なぜならば、最終的に購入を判断するのは常に顧客であり、競争が激しくなればなおのこと競合商品/サービスとの差がなくなっていくため、顧客が他ならぬ自社提供の商品/サービスこそが顧客自身にとって意味のあるものであると実感しなければ購入しないようになってきたからです。
そこで「顧客中心主義」やCRM(顧客関係管理)といった考え方が登場し、注目を集めるようになりました。具体的には、個々の顧客をより深く理解し、個々の顧客のニーズにきめ細く対応することで販売チャンスを逃さず収益を維持・拡大しようということです。さらには、競争の激化は市場飽和という現象を引き起こす訳ですから、新たな顧客を探し出すことがいっそう難しくなり、そのような獲得コストをかけるよりも既存顧客との再度の取引を重視する(つまり既存顧客を囲い込む)方が販売コストをかけずに効率的に収益を確保することができる点もCRMが重要性を増すようになった要因の一つです。
CRMとの違い
しかしながら従来のCRMは、顧客との一生涯の取引から得られる収益のみに着目していたように思います。つまり、顧客の購買行動の背景に何があるかはさておき、顧客生涯価値(当該顧客の一生涯にわたる総売り上げ額から総コストを差し引いた額)を最大化しようとしていたということです。一方、ここで触れる「カスタマー・サクセス」とは、自社が提供する商品/サービスの購入のみならず、実際にそれを利用して顧客自身が達成しようとしている目的の実現を支援して初めて価値が生まれるという考え方が根底にあります。言い方を変えますと、顧客が成功しないかぎり取引が成立しなくなるようになってきたということです。例えば、仮に高額な商品を販売できたとしても、それを購入した顧客がそれをうまく使えず結局目的を達成することなく放置されることになるとしたら、顧客はまったく無駄な購入をしてしまったということになり、その企業と発展的に取引しなくなるということです。つまり、この企業がこの顧客と行う取引は一度きりで終わってしまい、それ以上の収益向上が望めないということです。この点は商材自体が高度で複雑になり顧客自身が商材についての知識や技量が追いつかず、上手く使いこなせなくなって来た事情とも大きく関わっており、特にITやハイテク関連の商材にこの傾向が顕著に現れているわけです。
テクノロジーがもたらした影響
従いまして、企業は顧客と一度限りで取引を終えるのではなく、できるだけ複数回の取引を求めるようになります。顧客との接点はいわゆるデジタル・チャネルが増えてきたこともあり、テクノロジーの役割がさまざまな観点から重要性を増すようになりました。すなわち、より深く顧客を理解するためにあらゆる顧客情報を一元的に集約・分析し顧客のニーズを予測・提案するためのアナリティクス(分析)にとどまらず、顧客にとって好適な時間帯やチャネル/UI(画面などのユーザー・インターフェイス)、表現方法などを工夫し(すなわち適切なCX:カスタマー・エクスペリエンスを提供し)、顧客がどのように反応したか、どのように考えているかなどを把握する(VoC:顧客の声と呼ばれることが多い)必要性が高まってきたということです。
また、商材の提供方法にも変化が訪れています。取引方法を従来の一度きりの販売/購買で済ませるのではなく、定期的に(あるいは必要に応じて何度もという形で)対象の商材を提供する、その際には利便性が高く値ごろ感のある価格帯を設定する形が普及するようになります。いわゆるサブスクリプション形式がこれに該当します。顧客接点がデジタル化されてきたことも、サブスクリプション化を推進し、顧客と接する機会が増大するようになった訳ですが、ここでもテクノロジーに期待される役割が大きくなっている訳です。
サブスクリプションあるいは年間契約といった長期間の契約を勝ち取ることで、企業は顧客と長期にわたって安定的に収益を確保できるようになる訳ですが、この場合の最大のリスクは顧客から突然解約を申し出られることです。言い換えますと、契約中の顧客がいつどんな理由で解約を決断するに至ったかが把握できないということです。販売側の企業は顧客から解約されないよう策を講じる必要がある訳ですが、顧客が解約を申し出る時点で顧客は既に解約を決心している訳ですから、その時点で「ちょっと待ってください」と言ってももう手遅れです。販売側の企業は解約を望みませんから、顧客に解約されないようにするには、顧客がどの時点で何故解約を決心したかを把握する必要がありますが、これがかなり難しいのです。
もちろん、販売側企業は解約さえ阻止できれば良いというわけではありません。さらなる利用拡大(機会の発掘)に努めるべきですし、そうでなければ競争の激しい業界においては特に、いずれ解約されてしまうという事態に陥ってしまうということです。そうではなくて、顧客が自社製品/サービスを有効に活用することで顧客自身の成功を支援するにはどうしたら良いかというカスタマー・サクセスの考え方を支援し、顧客へ積極的に働きかけることができるようなテクノロジーが脚光を浴びるようになります。これは現在、カスタマー・サクセス・プラットフォーム(CSP)として登場しています。
現在、既にCSPを提供するプロバイダーさんが複数登場しています。次回以降でその解説を行いたいと思います。