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CRMの実現はなぜ難しいのか?

私はこれまで四半世紀以上にわたってCRMと関わって参りました。もちろん、黎明期には試行錯誤的な苦しみもありました。しかし、テクノロジが進展し自動化や予測機能などの利便性が高まってきてはいるものの、ビジネス戦略としてのCRMは実現が難しいというのは昔も今も変わっておりません。

そもそもCRMという考え方は、それまでの企業中心的なビジネスのあり方を顧客中心的なものへ転換を図ることで収益性(あるいは競争力)を高めることを意図しています。つまり、それまでの戦略や業務を根本から入れ換える必要がある訳ですが、そのためには経営者から現場の顧客応対業務に至るまで、思い切った覚悟と一貫性が求められることになります。しかし、冷静に考えるとこれ自体が実現が容易なものではない訳です。

難しいことに取り組む場合、まずはできることから着手するというのは一般的かつ合理的なアプローチと思います。そこで、まずは顧客に関する情報を集約したデータベースを構築し、それを基に顧客応対業務を支援する、いわゆるCRMパッケージ・ソフト(以下、「CRM製品」)が開発され販売されるようになりました。これは21世紀に入る頃でしょうか、日本国内でも多くの企業がそのようなCRM製品を導入するようになりました。しかし、システムを導入するだけでは期待した成果を出すことができず、多くの場合、多額な投資からのリターンが得られず、結局「CRM」=「CRM製品」=高額かつ成果が出ないと言った図式が出来上がってしまい、多くの企業がその後CRMに対して慎重な姿勢を見せるようになったように思います。

このような現象が起きてしまったことに対し、指摘しておきたいのは以下の点です。

  • 初期のCRM製品は海外製のものが主流であり、ライセンス料が総じて高額だった点、日本語化が遅れていた点、日本型のビジネス・プロセスへの対処が不十分だった点などから、日本企業が利用するソフトウェアとして機能させることが難しかった。
  • CRM製品を導入する企業の側も、CRM製品の活用によってどんな成果が得られるか/得るべきかという認識が十分でなかった。ビジネスの成長/発展という経営者的視点からの改革を目指していたとしても、営業部門やコールセンターといった現場の顧客接点業務についてCRM製品が提供するパッケージ化された機能でどのように置き換えるか、あるいは現行業務をどのように変える必要があるかといった観点からの準備が不十分であり、結果として現場部門から反感を買うケースも見られた。
  • 一方でCRM製品が提供する機能(対象業務)は拡大を続けた。例えば、主に営業支援(SFA)やコールセンターをサポートしていたCRM製品が時を追うごとに、マーケティングやコマース、あるいはソーシャル・メディアの活用といった領域に拡大し、顧客分析機能もそれに合わせて高度化していったが、多くの日本企業はこの流れについて行くことができず、むしろ混乱を来たす結果となることもあった。

しかしながら昨今のデジタル・テクノロジーや人工知能といった技術の進歩により、多くのCRM製品が日本企業にとっても使いやすいものになって来ているのも事実です。では、そのように使いやすくなったCRM製品を活用しさえすれば、CRMの目的は達成できるのでしょうか?

このことを考える例えとして、自家用車について考えてみたいと思います。ご存知のように自家用車は誰でも簡単に運転できるようになり、さらには自動運転も期待されています。では自家用車を保有し利用する目的とは何でしょうか?通勤、買い物、レジャー等、人それぞれと思いますが、おそらくそれらに共通する期待は、目的地に迷うことなく安全に、しかも早く到着できるようになることでしょう。しかし、新機能満載の新たな車両を購入しさえすれば、皆さんの目的は達せられるのでしょうか?自動運転が期待されているとはいえ、少なくとも現時点では運転技術や必要な知識や判断は運転手に委ねられます。つまり、運転手の育成なしに車両を購入するだけで目的が達成できるものではありません。

これと似たような現象がCRMの世界では当たり前のように起きています。つまり、CRMシステム利用者のトレーニングのみならず、そもそもどんな目的を達成するためにどの業務をどのように変更するのか、その方向性を示すことなしに、単に他社も利用しているから、最先端の技術だからといった理由からCRM製品を導入したとしても期待通りの成果を得ることはかなり難しい訳です。

何故このような現象が頻発するのでしょうか?これまでに私はさまざまな調査を行って参りましたが、その根本原因については少なくともこの20年間において下記の3点以外に大きな変化は見出せません。

  1. 責任の所在が曖昧である・・・そもそも「顧客」を統括する部門が定まらない企業が多い。
  2. 顧客データが分散しており、収集や一元的管理が困難である・・・CDPなどのテクノロジの普及もあるが、どの情報を何の目的でどの部署が利用するのかといった社内の統制(ガバナンス)が効いていないことが多い。
  3. 成果の把握あるいは投資効果の可視化が難しい・・・目的がなかなか社内で一致できないという課題に加え、どのような評価指標を用いるべきかといった疑問に答えられないことが多い。

私が最も大きな問題だと思うのは、この3点がこの20年間全く変わっていないという点です。そしてこのことが、日本経済全体の低迷と無関係とは思えないのです。私はこのブログを通じてこの事態の打開を図ることに貢献したいと強い思いを持っておりますし、これを突き詰めていくと本ブログで提示した3つのナゾ、特に第二のナゾ(付加価値創造の部分)と関係が深いと考えている訳です。

引き続き関連記事を投稿して参りますので、ご感想やご質問などお寄せいただければ幸いです。

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