前回は、私が意図する「日本型ビジネス」とはどういうものであるかについて書きました。
今回はそれとも関連するのですが、いかにも日本的な業務改善のアプローチについての私の考察になります。皆様が日々行なっている業務を、何らか良い方向へ改めようとするから「改善」と呼ぶわけですが、その中でいかにも日本的と私が感じるものを紹介し、その傾向について考えてみたいということです。
まず思いつく「改善」の方向性は、煩雑な業務をテクノロジーによって簡略化・迅速化・自動化するものになります。例えば、伝票など数字を含む複雑で大量の情報を表計算ソフトや会計ソフトなどを用いて入力することで、入力ミスや集計ミスを防ぐといったアプローチがあるかと思います。また、過去に得た情報をデータベースに蓄積することで、同様あるいは類似の過去の情報を再利用することでデータ入力の作業負荷を軽減させる、電子メールやグループウェア、ソーシャル・メディアなどを活用することで情報伝達を迅速化・効率化するといった例も挙げられます。あるいは多様で膨大なデータをコンピューターに投入し学習させる、つまり人工知能を活用することで予測の精度が向上する、さらには、これまで人間が作成してきたものを自動的に生成するテクノロジー(生成AI)によって人間の仕事がかなり減っていくとまで予想されるようにもなっています。
確かにこれらはテクノロジーを活用することで複雑な「業務」を飛躍的に「改善」しています。そしてこれからもさらなる「改善」が期待されています。
ここで私は2つの疑問を持ちました。
1つは、テクノロジーを活用しなければ飛躍的な業務改善は実現できないのか?
そしてもう1つは、業務の改善とは、簡略化・迅速化・自動化をもたらすものだけなのか?
の2点です。
1つ目の疑問に関連しまして、例えばそれまでの業務手順を精緻に見直すことで、作業時間の短縮化をもたらしたという場合、昨今では業務手順をシステム化することで複雑な手順や意思決定プロセスが可視化されるようになっています。その場合もやはりテクノロジーの活用が改善に不可欠と考えるべきでしょう。さらに、そのように可視化されたことで、作業時間の短縮化のみならず、見込み顧客の発見につながったということも考えられます。この場合は、簡略化・迅速化・自動化だけでなくビジネス機会の発見にもつながるということで2つ目の疑問にも答えている訳です。
ということで、本稿では業務改善のためにはテクノロジーの活用が必要不可欠であるという前提で話を続けます。それから、業務改善の方向性はビジネス機会の発見といったものも考えられるという点を強調しておきたいと思います。言い換えますと、テクノロジーの活用はコスト削減だけでなく、ビジネス成長をもたらす潜在性があるということです。
さて本題です。以上のような改善の方向性は何も日本に固有のことではありません。ではどの部分が日本的であると私が感じているかについて説明いたします。
多くの方が指摘し、私もそのように感じる業務に取り組む姿勢で日本的であると言われるものは、「ボトム・アップ」であるという点です。つまり、経営層から業務改善の方向性が示されるというよりも、いわば現場任せ、あるいはそれに近い形で現場スタッフの発案により改善が行われる形が日本的であるということです。従いまして、日本における業務改善は、現場視点で業務の負担を軽減させることを目的とする傾向が非常に強いと申し上げておきます。逆に言いますと、日本は経営的な視点でテクノロジーを活用した業務改善、さらにはその取り組みを通じてビジネス成長を志向する姿勢が弱いということになります。
いくつか具体例を挙げておきます。
- 主に営業業務を支援するはずの「名刺管理」。営業担当者が保有する大量の名刺をシステムに投入することで、コンタクト情報の効率化を図る。しかし、ここで終わるのではなく、そのようなコンタクト情報を体系的に整理し、商談プロセスを見直し、受注確度の向上に努めることができているか?
- コールセンターにて顧客からの問い合わせに対処する業務の効率化。この場合、顧客との会話をテキスト化し、適切な回答を事前に準備しておく、あるいは対話そのものを自動化するなどの改善が可能となる。これによりコールセンター担当者の業務負荷が軽減できる。しかし、ここで終わるのではなく、顧客がなぜそのような問い合わせをするのか、その理由を分析し、顧客が疑問を感じなくなる(つまり入電量を減らす)ようなコミュニケーションが実現されているか?
- Webページやモバイル・アプリに表示するコンテンツの設計と作成。いわゆるコンテンツ管理システムや生成AIを活用することでコンテンツ作成・修正などの業務負荷が軽減できる。しかし、ここで終わるのではなく、サイト訪問者やモバイル・ユーザーにとって適切なコンテンツを適切なタイミングで配信することで、満足度向上やコンバージョン・レートの向上まで実現されているか?
テクノロジーの活用により現場部門の業務負荷軽減が実現されること自体は望ましいことですが、日本企業においては特に、さらにビジネスを発展させる方向でテクノロジーが活用できているか、私は甚だ疑問に感じております。この点は私が提起する第二のナゾにつながる話になると思います。これもよく言われることだと思いますが、日本企業においては、経営層もしくはそれに近い立場の方々がテクノロジー活用に対する関心が薄いというものがあります。もっと言うと、ビジネス成長のためにはある程度、現場業務に負担を強いることも時として必要と思います。しかしこのままだと、現場目線での業務改善しか行われず、機会を逃してしまっているケースが多々潜んでいるのではないかという疑問を私は持っております。
テクノロジーの重要性は高まる一方であり、片や人手不足は深刻化する一方です。日本的な業務改善のアプローチにテクノロジーを活用してビジネス成長を目指すという方向性が必須となっているという点を強く強調して、本稿を締めさせていただきます。
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