かなり前の話になりますが、某大手企業の会長さんに呼ばれ、CRMとは何かについて教えてほしいという依頼を受けました。もちろん私は喜んでその説明にあたったのですが、会長さんの印象的な言葉に「CRMってのは顧客管理とは違うんだよね」というのがありました。私もその場で「はい」と同調しただけで、それ以上の深い議論はしなかったのですが、今振り返ってみてもこの会長さんの言葉は短かくも核心をついていたと改めて感心します。つまり、単に顧客情報をデータベースに蓄積するだけでは顧客「関係」管理はできないよね、という意味だったと解釈しております。
で、この顧客との「関係」の管理という考え方をもう少し具体的に噛み砕いていくと、顧客との関係を良好に維持または改善しましょうということで、より実務に落とし込んでいくと、収益性の高い(あるいはそのように見込まれる)顧客を重視し、ビジネスを成長させようというところに行き着くかと思います。実務面で難しく、議論となりがちなのは、その顧客あたりの収益性をどのように判断するのか?一人一人の顧客の顔に、収益額が書いてあるのか?書いてないからどのように重視したらいいのかわからないじゃないかといったものがあります。あるいは、上顧客だけ大事にして、一般の顧客は蔑ろにして良いのか?といった指摘もあるかと思います。例えばコールセンターに寄せられる声に、「知り合いの〇〇さんは、これこれの優待プログラムに招待されているのに、なぜ私は招待されないのか?」といった問い合わせに困ってしますといったものもあります。この背景には何と言いますか、すべてのお客様は「神様」だ、みたいな平等主義的な考え方が日本企業に浸透しているようにも思えます。
ここで肝要なのは、顧客の収益性をどの尺度で測るのか、そしてそれが顧客と接する立場の業務担当者にまで浸透しているのか?という疑問に答えなければならないということです。言うまでもなく、企業に収益をもたらすのはお客様であり、それ以外にはあり得ません。従って、どのような人や企業が「お客様」であり、どれだけの「収益」をもたらしているのかを企業内で明確にしておく必要があるということですが、さまざまな企業のCRM活動を調査してきた私の経験から言えるのは、はっきりと「顧客」及び「収益」を社内で一貫した形で定義し実践できている企業が未だもって少ないということです。典型的には、営業部門は顧客獲得に全エネルギーを注ぐあまり、顧客化後に発生するコストや他に及ぼす影響を軽視しがちで、コールセンターなどの顧客サービス部門は顧客対応にかかるコストと時間をどれだけ短縮するかに注力しがちで、顧客化前から顧客化を通じて最終的な取引の終了まで全体を見渡した顧客一人あたりの総合的な収益性(顧客生涯価値)に基づく顧客戦略からオペレーションまでが一貫した形で行われていないということが圧倒的に多いということです。
つまり、一つの会社の中であっても、顧客の収益性をどの尺度で測るのかについて正しく理解されることがかなり難しいということです。この問題を解決することなしに、顧客情報を整備し、CRMソリューションを導入しても、期待される成果はもたらされないということになります。
ではどうすればこの問題を解決できるのか?このことと本ブログで提起する3つのナゾは大きく関係し合っていると私は考えています。引き続き関連記事を投稿して参りますので、ご感想やご質問などお寄せいただければ幸いです。