失敗しないCX(カスタマー・エクスペリエンス;顧客体験)が成功するCXなのか?

これは前稿「CX(カスタマー・エクスペリエンス;顧客体験)の成功とは?」からの続編になります。

そもそも、何を以て成功/失敗というのでしょうか?

実際によくいただく質問として、「CXの成功事例を知りたい」と同じように「CXの失敗事例を知りたい」というのがございます。

おそらく、成功/失敗と言っているのはCX全体ではなく、ほとんどの場合、個別のCXの取り組み(施策)を指しているものと思われます。

そうであれば、個々のCX施策がビジネス全体の戦略に合致した成果をもたらしたかどうかで判断すれば良いと思います。しかしながら、これには以下のような様々な困難を伴うことになります。

  • 売り上げ/利益を計上するサイクル(月次、四半期、年次など)内でCX施策の成果が財務的な数値として現れるとは限らない。おそらく多くの場合、施策の成果が現れるのに数年を要することになる。
  • したがって、顧客満足度やネット・プロモーター・スコア(NPS)などを中間指標として設定することになるが、そのような中間指標と最終成果の因果関係(何が顧客満足に貢献し、それによってどれだけの顧客増をもたらしたか、など)をよほどうまく説明しない限り、CX施策を正しく評価することが難しい。
  • 顧客への影響度合いのみならず、社内への影響(従業員エンゲージメントや習熟度/スキル向上度合いなど)もビジネス成果に貢献すると考えられるが、明確に成功度合いを評価することが難しい。

これらの点は、私が掲げている第二のナゾ(企業が成長するために必要となる付加価値創造プロセスについて)の解明の観点から今後深く掘り下げて行きたいと思います。

そうではなく、ここで論じたいのはCX施策全体を通じて、ビジネス戦略に沿った結果とならない場合に限って「失敗」と言って良いのではないか、もっと言うと個々の施策の特定の断面だけを見て成功/失敗を結論づけるべきではないということです。仮に1つの施策が短期的に見て「失敗」に終わったように見えたとしても、長期的で全体的なビジネス戦略からするとはるかに重要な成功の一要因となる可能性もある訳です。すなわち「失敗は成功の素」と表現できるものも多いと思います。逆に言いますと、短期的な失敗を避けて無難な施策ばかりを続けたとしても、ビジネス全体の成果に貢献できないのであれば、こちらの方こそ、致命的な「失敗」と私は断じたいと思います。

実際に、私から見てうまくCXに取り組んでいる企業の方にお話を伺いますと、ほとんど決まって「我が社のCXの取り組みは失敗ばかりで、とても成功事例などと呼べるものではありません。でもようやく、何とかここまでは来ることができました。」と言った意味のことをおっしゃいます。つまり、個別の「失敗」を通じて得られる「学び」が将来の「成功」をもたらすと考えるべきです。考えてみれば、ビジネスを成長させるために、往々にして達成不可能とも思える挑戦的な事業計画を立てる企業さんも多いと思います。個々の計画が全て成功しなくても、全体として事業目標に近づけば良いという考え方に立脚していると思いますが、CXの取り組みもこれに似たようなものと考えるべきではないでしょうか?競争力を維持・向上させるという意味ではビジネス全体の計画とCXの計画には何ら変わるところはない訳ですから。

非常に長くなりましたが、CXの成功に必要なこととして以下を示しておきます。

  • 個々のCX施策とビジネス全体の計画との関連性を明確にする。ビジネス全体の計画に終わりがないのと同じでCX全体の計画にも終わりはないと考える。
  • 個々の施策の「失敗」を恐れずチャレンジを続ける。むしろチャレンジしないことを「リスク」と捉える。
  • CXを推進するリーダーは、そのような失敗を許容あるいは擁護する。同時にそこから何を学んだかを把握した上でメンバーへの動機付けとする。

私なりの結論ですが、CXに成功している企業は、「個々のCX施策から得られた教訓を糧に、ビジネス戦略に則ったCXにチャレンジを続けている企業」ということになります。

もちろん、様々なご意見やご感想もあろうかと思います。そのような場合には、コメントあるいはお問い合わせフォームからのご連絡を歓迎したいと思います。

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