時間について

今回は日本型ビジネスのナゾ解明のための「時間」という切り口からのアプローチになります。

「マネジメント」で有名なピーター・ドラッカーさんの言葉に、”Time is the scarcest resource and unless it is managed, nothing else can be managed.”「時間は最も乏しい資源であり、これを管理できなければ他の何も管理できない。」というものがあります。資金量でも資源量でも才能ある人材でもなく、「時間」が最も乏しい資源であると指摘されているこの言葉の意味をじっくり考えてみたいという訳です。私もよく「時の刻みとお天道様は万人に平等」という意味の言葉を発しますが、要するに保有資産や資質などは大なり小なり個人差があるが、時間と天気だけは平等に与えられる、すなわち誰にでも時間と天気を味方につけるチャンスがあると言いたい訳です。もっともドラッカーさんが指摘されているということはこの点は何も日本に限った問題ではないと考えられますが、時間に関して日本型ビジネス固有の考え方や取り組み方があるのであれば、それが日本型ビジネスのナゾを生み出しているのではないか?という観点からアプローチしてみたいという訳です。

すなわち、日本経済が低迷している理由の一つは、平等に活用できるはずの時間を日本企業が有効活用できていないからではないかという仮説を立ててみたいということになります。

日本企業に特有な時間の使い方で私が思いつくものとして、長い会議と「サービス残業」があります。実際に私は海外の人たちと仕事をしてきましたが、確かに彼らのミーティングは長いということはほとんどありませんでしたし、「サービス残業」についてもほとんどありませんでした。

では、なぜ日本企業の会議時間は長いのでしょうか?日本人は「和を重んじるから」あるいは「同調圧力があるから」結論を出すのに時間がかかるという指摘をされる方も多くおられることでしょう。いわゆる「サービス残業」についても同じ理由から、すなわち自分だけ先に帰るわけにはいかないといった心理が働きやすいからだと考える方が多数ではないかと思われます。これら以外にも理由があるかもしれませんが、確かめるべきは、消費した時間に見合ったアウトプット、すなわちビジネス上の価値が創出されているか?という疑問に答えることではないかと思います。つまり、消費する時間に見合った成果が出るのであれば良いのですが、そうではなく時間に見合ったアウトプットが創出されていないのであれば、そのような時間の使い方についての改善が必要であると結論すべきという訳です。

しかし、消費時間についての定量化はそれほど難しいものではないと思いますが、創出されるビジネス価値はどのように測るべきでしょうか?この点は私が提示する第二のナゾと関係が深いと思いますが、こちらでも指摘している通り、ビジネス価値の測定は容易ではありません。さらには、長い会議とサービス残業に関わる人数も考慮すべきです。つまり消費した時間が短かったとしても、多くの人が関与するのであれば稼働時間全体は膨大なものになりかねません。

ただし、測定に難しいものがあるとはいえ、これらのファクターは認識・特定できています。つまり、現在どの程度正確かは別にして、何らか定量化、可視化が可能であり、将来的には正確さが改善できると期待できます。

このように消費した時間と生産された価値を明らかにしていく努力に加え、私は次のような原因究明を行いたいと考えています。むしろ、こちらの方がクリティカルではないかと思っています。それは、一言で言うと「完璧主義」に端を発する時間の軽視です。すなわち、時間をかけさえすれば完璧なものができるという、いわば妄想のような考え方があるのではないか?言い換えると、時間を考慮せずに完璧を求めることだけが常に正しいアプローチなのか?ということです。

もちろん、精密機器の製造や医療など、精密さや完璧さが求められる業務も多数存在します。しかしながら「人間」が行う業務である以上、何らかエラーが発生してしまうという現実にも配慮する必要があります。従いまして、要求される精密さ/完璧さに応じたビジネス価値の創出という視点から使用できる時間配分を考慮する必要があると考えます。しかしながら一方で、人間が行う業務である以上、頻度が低くともエラーを起こすのは迷惑をかけてしまう、あるいはエラーを指摘されてしまうことを恐れるといった心理が働き、微細なものまで含めエラーを除去あるいは隠蔽するために時間を消費してしまうといった事態も起きているのではないかと思われます。このような心理的側面からは、要求される精密さ/完璧さに応じたエラーの許容レベルを明確に定めるという取り組みも同時に必要になってくるのではないでしょうか?この点は企業/組織レベルでエラーに対する価値観を見直し、業務を行う個々の担当者の意識にまで組織的に浸透させていく必要があるように思います。

変化が激しく迅速性が求められる現代において、たとえ競争力のある成果を出せたとしても時間がかかってしまうと競合他社に先行されてしまう、そのような事態を避けるべきであることは言うまでもありません。日本経済と皆様のビジネスの発展のために、本日提示申し上げた時間についての仮説を今後厳密に検証していきたいと思います。この点も時間をかけすぎてはいけませんが。

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