YouTubeチャンネルでは、前田徹哉さんにご登場いただき、前田さんのご見解を詳しくお聞かせいただくことができました。本当にありがとうございました。
私と前田さんはほぼ同世代ということもあるのですが、キャリアのスタートは全く異なったものでした。前田さんは百貨店から始まり、私はIT業界から始まりました。その後インターネットが普及し始め、ネットバブルと呼ばれる時期に差し掛かった頃に私たちは同じような取り組みを行うようになりました。前田さんは、それまでのご経験に加え、これからは英語とITということ、私はITの進化に加え、グローバルへの挑戦、それからCRMやマーケティングへということで、結果的に同じ場所に辿り着いた訳です。
第一のナゾ(IT部門のナゾ)に関しての前田さんのご見解をおさらいしますとおおよそこういうことだったかと思います。
多くの方が指摘することでもありますが、日本企業の伝統的なスタイルとしてのメンバーシップ型の終身雇用があると思います。そのような環境下では、出世のためには、ITのように新たに登場した職務よりも、本業(百貨店における商品部のような)を中心に、主流の業務を一通りこなしていくことに関心が集まってしまう結果、ITは出世競争という意味では蚊帳の外に置かれてしまっているのではないかということです。
しかし、前田さんご自身はマーケティングにテクノロジーを活用して成果を発揮されたご経験をお持ちです。これは、マーケティング・ツールを売る立場(なかなか売れなかったとおっしゃっておりましたが)を通じて、その活用方法を熟知され、それを事業会社に移ってから実践した結果だということでした。ここから言えるのは、業務もそれをサポートするテクノロジーも両方熟知すれば、より発展的にITが活用できるということです。
ITを活用することで得られる成果として、「見えないものが見えるようになる。故にできなかったことができるようになる。」とおっしゃっておりました。私もここに大きなビジネス価値があると思うのですが、多くの方はコスト削減には関心を払うが、バリューを追求する姿勢が弱いのではないか?また、ITを活用しようとする業務部門の姿勢、業務を理解しようとするIT部門の姿勢の両方が欠けている企業が多いのでは?という指摘もありました。この両方のご経験を持ち成果を出したという前田さんのご発言にはとても説得力があると思います。
さらにナゾを究明しようとすると、国民性や教育システムに問題があるのではというご指摘もありました。忍耐強くひたすら努力を続けるという日本の国民性は、良い方向に進めば高度経済成長のような目覚ましい成果をもたらす一方、ひとたび悪い方向に進み出すと、悪い方向であってもひたすら努力を続けるがために、太平洋戦争のような悲惨な結果を招いたこともある。この両極端をこの100年の間に両方経験してきたことが果たして良かったのかそうではなかったのかを今一度考え直す必要があると改めて感じました。これは、果たしてこれでいいのか、何らか改善する必要があるのではないか、といった考える姿勢を持ち続けることをしない、あるいは避けようとするのが日本の良くない傾向ではないかと私は思います。組織の中で、(営業が上位でIT部門が下位と言ったような)暗黙の序列とでも言うべき現象が起きているのもここに一因があるように思います。
日本における教育は国益のためであり、世の中のためになる社会益になっていないというご指摘もございました。この点は「これでいいのだ。」といったアファーマティブな考え方だけなく、批判的に「これでいいのか?(もっといいやり方はないのか?)」と問い続ける姿勢が注目されない原因の一つではないかと考えられます。この点は私が掲げる第二のナゾ(付加価値創造のナゾ)に繋がっていくことになります。
また、前田さんは「センス」と「ナレッジ」について、「ナレッジ」の軽視もしくは欠如を懸念しておられました。「ナレッジ」の欠如による間違った判断の例として、中世の欧州で発生した伝染病への対処、つまりネズミが原因であることを知っているかそうでないかで対処法が全く異なってしまったこと(魔女狩りが行われるなど)を例に挙げておられました。いわゆる「PL脳」についても警鐘を鳴らしておりました。つまり目にみえるコストにだけ目が行ってしまい、本質的な改善が図れないと言うことですが、私もこれに近い経営判断が今なお至る所で起きているのではないかと思います。これに対処するには、「絵に描いた餅」を描く、つまり仮説を立て、これでいいのか、もっと良い方法はないのかを考え続ける必要性があるという提言に繋がってくる訳です。
第三のナゾ(グローバル化のナゾ)についてですが、日本は「イノベーション」を創り出す意識がものすごく弱いという点を指摘しておられました。これは一般的に一流とされる有名企業や大学に顕著な傾向ではないかと思います。片やアニメやゲームの世界では「越境した」スキルやナレッジ(つまり複数の領域でスキルやナレッジを持っている)を持つ人たちが立派にビジネスを行っている点を指摘しておりました。ここで、私が感じた疑問は次の2点です。
- そのような越境スキルやナレッジは誰でも獲得できるものなのか?
- そのような越境スキルやナレッジを獲得しよう、促進しようという風潮が弱い(あるいは封じ込められている)のではないか
1点目については、聞きそびれてしまいましたので、次回改めて伺いたく思いますが、2点目については、その通りではないかとのご見解でした。
その他にもいくつかのグローバル化を抑制してしまっている傾向について議論させていただきましたが、今回は時間切れになってしまいました。最後の方で情緒に訴えるストーリー・テリングが弱いのではというご指摘もあり、私も大変興味を持っていますので、ぜひまた議論させていただきたく思います。
改めまして、前田徹哉さん、貴重なお話ありがとうございました。次回も企画しますので、今回話し切れなかった点を中心によろしくお願いいたします!