Japan Cloudの福田康隆さんにお話を伺った

私が掲げる3つのナゾを解明する上で、キーパーソンとなるジャパン・クラウド・コンサルティング代表取締役社長の福田康隆さんにお話を伺うことができました。福田さんご自身はSalesforceやMarketoなどのSaaS製品を米国および日本で普及・定着に努めた実績をお持ちであり、CRMやマーケティングに取り組む日本企業の特徴や課題をグローバルな視点から熟知されている方です。現在は海外のSaaS製品を日本国内に導入・支援するJapan Cloudのパートナーとして活躍しておられます。今回私の取材の申し出に快く引き受けてくださいましたことに大変感謝しております。

現在Japan Cloudが支援するSaaS企業は、Braze, Gainsight, Mirakl, Xactlyなど、私が専門とするCRM、マーケティング、営業といった売上・利益を創出する業務領域をサポートする海外製有力製品を含め現在10社に及んでいます。つまり、私が第二のナゾとして掲げる「付加価値創造のナゾ」を解決するソリューションを数多くお取り扱いということです。これらのSaaS製品は日本国内で着実に成長しているものの、未だ発展の余地が多く残されているように思います。このことを考えますと、次のことが言えるかと思います。

  • 日本国内の企業の多くは、テクノロジを活用して売上や利益を創出しようと考える意欲は依然として高くない。
  • 付加価値創造を支援するこれらの領域をサポートする有力な国産製品があまり見当たらず、日本国内のSaaS提供企業もこの領域に十分に注力しているようには見えない。

日本経済の低成長や人手不足が叫ばれる中、これらソリューションの活用が有力な選択肢となるはずですが、そうなっていないのは何故か、すなわち第二のナゾが解明されずに残されている訳です。また、そのような有力なSaaS製品が国内製ではなく海外製が主流である点は第三のナゾと密接に関係しています。

私がナゾと感じるこれらの点に関し、福田さんは以下のご見解を示されました。

  • 私(川辺)が指摘する通り、日本企業のテクノロジの活用の傾向として、トップライン(売上目標や事業パフォーマンス向上など)への活用意欲が海外と比較すると低いと感じる。海外では、トップライン成長のためのインセンティブ(動機付けや刺激策)プランが機能しているが、日本では制度やツールに落とし込まれておらず機能していないのではないか。どちらかというと、コスト削減のためのテクノロジ活用に注目や投資が集まる傾向がある。
  • 日本企業の典型的な課題として、いわゆるレガシー・アプリケーションに代表されるような旧来の業務や仕組みからの転換(あるいは共存)に苦労しているという点が依然として目立つ。しかし、なぜそうなのかについてはさまざまに要素が絡み合っており、根本原因の特定は難しい。
  • 一方で、新興のデジタル・ネイティブと呼ばれる企業においては、伝統的な旧来の業務の制約が少ないせいか、その限りではなく、テクノロジ活用の意欲は高く、また変化への対応は早い。

つまり、旧来からの業務支援としてテクノロジが活用されてはいるものの、付加価値創造につながるような方向でテクノロジを発展的に活用しようとする余裕がない、あるいは気づいていないという日本企業が数多く残されていると考えて良さそうです。何故そうなのかについては、さまざまな要素が絡みあっているとのことでしたので、日本企業に典型的に見られる業務への取り組み姿勢や組織体制の特徴について伺ったところ、福田さんは次のような点を指摘されました。

  • 日本企業(あるいは日本人)の考え方の傾向として、ウォーターフォール型のように完全なものを作ってから次のことに着手するという点がある。ただし、この点はSaaSの普及によりできるところから始める、走りながら改善していくといったアプローチも増えてきたと思う。
  • そのようないわば完璧主義が目立つ一方、日本型組織では、責任の所在、意思決定者が曖昧となりがちな点も日本企業の課題と思う。テクノロジによる刷新という場合、組織構造で言うと経営層含めた上位層の問題意識よりも、中間管理職層よりも下位の人たちの方が理解度や問題意識も高い。
  • 海外に比べると、CIOを始めIT部門の方々の社内でのプレゼンスが高くない(つまり社内では目立たない存在)といった現象も見受けられる。

やはり、と言うべきか、社内でテクノロジ活用を通じてビジネスを発展させようと考える人が社内にはいるものの、そのような方々のプレゼンスあるいは発言力が十分でなく、権限のある変革推進役の不在という現象を生み出しているように感じました。この点は私が提起する第一のナゾとの関連が非常に深いと感じます。

最初に紹介すべきだったかもしれませんが、福田さんご自身は”THE MODELマーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス”と言う本を2019年に著されております。ここでは、インサイド・セールス、カスタマー・サクセス、レベニュー・モデルなど、まさにマーケティングや営業といった業務領域における付加価値創造を支援する業務改革の方向性を示されております。ですが率直な印象として、「カタカナ」が多く、容易に理解を取り付けるのが難しいと感じました。そこで、わかりやすい日本語に訳すべきではと質問してみましたが、適切な訳語がないのであえて日本語にする必要もないのではというご見解でした。言われてみれば確かに、例えば「電算機」よりも「コンピューター」、「内燃機関」よりも「エンジン」、「庭球」よりも「テニス」といった具合で外来語のままの方が通じやすい言葉も数多く存在します。逆に言いますと、理解が深まり普及するようになるにつれ、インサイド・セールス、カスタマー・サクセス、レベニュー・モデルといったカタカナ用語もいずれそのままビジネス用語として定着するようになると考えた方が自然かもしれません。しかし、そうであればなおのこと、これらのカタカナ用語を理解してもらう努力、および理解しようとする努力が一層求められることになるとも思います。

大局的に観れば日本経済の発展、個々の企業の課題という観点からは付加価値創造部分の業務改革が必要とされていることに異論の余地はないでしょう。では、どのような取り組みが必要か?福田さんとの対談を通じて、今回紹介したSaaS製品を単に導入するだけでは解決せず、組織体制や考え方、業務への取り組み姿勢の改革が必要となると理解しましたが、さらにそれ以前に新たな外来用語の理解・普及に努めることがまず重要であるという点を痛感いたしました。もっとも、「ボトム・アップ型」の改革が伝統的な日本企業の特徴として挙げることもできるとも思います。つまり、時間の経過とともにいつの間にか新たな業務が定着しているであろうという考え方です。ただし、このアプローチは時間を要するため、グローバルのスピードについていけるのか、個人的には疑問に思うところでもあります。

生成AIなどのテクノロジは速いスピードで進化していますが、本当の意味でのビジネス成長のためには、これを単に既存の業務の改善のために取り入れるだけではなく、大局的、長期的な視点から取り入れて改革していく必要がある、そのためには、考え方や体制、さらには用語の理解を深めていく必要があるということです。福田さんとの対談を通じて、改めてこれらの点を強調し、活動していく必要があると痛感いたしました。本ブログではそのような用語や考え方の解説にも力を入れていこうと思います。

改めまして、今回取材に応じてくださった福田康隆さんに深く感謝し、厚く御礼申し上げます。

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