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前稿では、日本企業の取り組みが最終的なビジネスの発展(付加価値創造による成長)を目指すというよりも、目前の業務や課題の解決にしか目を向けていないのではないか、そしてそれが本来的なビジネス発展を阻んでいるのではないかというお話をいたしました。

上記は第二のナゾという観点から解明していきたい訳ですけれども、本稿では何故第三のナゾが重要なのかというお話をしたいと思います。

実はこれ、第一のナゾ(IT部門の組織的課題)とも連携する、とてつもなく大きなナゾが隠されていると考えています。非常に大まかで乱暴な表現になりますが、今のところ概略以下のような仮説を基に調査・分析を進めていきたいと思っています。

  1. 日本企業はITを重視せず、ビジネス成長のための武器というよりは、電卓のような単なるツールと考えているのではないか。(第一のナゾと関係が深い)
  2. なので、付加価値創造にITを活用しようという姿勢が諸外国に比して低いと思われる。(第二のナゾと関係が深い)
  3. したがって、欧米のITベンダーやコンサルティング・ファームが日本市場を見た場合に成長の余地があると判断するものの、日本内部における価値観や意思決定プロセスとの相違に因るところが大きいと思われ、日本進出に苦慮すると同時に、国内の経済発展ももたらされない結果となってしまっているのではないか。

ここで問題視したいのは3つ目の観点ということになる訳ですが、もちろん、実際には文化的歴史的価値観の相違によってうまくいかない結果になるという要素も多いと思います。しかし、「岡目八目」という言葉が示すように、成長に限界・課題を感じている企業においては特に、このような海外からの第三者的視点を取り入れることに大きな意味があるように思いますし、実際に欧米出身の経営者や役員を招いたり、MBA取得者など最新の海外事情や経営手法に明るい人材を採用したりする傾向も高まっていると思います。ところが、少なくとも私が見る限り、こういった取り組みもあまりうまくいっていないことが多いように思います。

何故でしょうか?

おそらく、ですが、大多数の企業の経営陣・管理職・従業員ほぼ全員の視野が国内に偏重しており、しかも現行業務を前提とした課題解決に注力することで少なくとも短期的には大きな問題を引き起こさないからではないかと思われます。

私はこれまで、顧客関係管理(CRM)を中心とした海外製のソフトウェア・パッケージ製品を販売しようとする欧米の人たちと数多く交流して参りました。もちろん、国内企業のそのような製品の購買担当者との会話も数多くこなしております。そこで目にした、この仮説の根拠となっている典型的なギャップを以下に挙げておきます。

  • 問題となっている箇所にのみ、パッケージ製品を当てはめようとする。例えば、表計算ソフトに頼らざるを得なくなっている煩雑な事務処理のみをパッケージ製品によって解決しようとし、そもそもそのような業務を招いている上流工程の改善(パッケージ製品はそのようなところまで機能を提供している)に関心を示さない。これは典型的な「カスタマイズ地獄」を招く原因となっていることが多いのではないでしょうか?
  • 意思決定者が明確な決断をしない。例えばパッケージ製品の販売業者が説得力のあるプレゼンテーションを行い、見積もりを提示しても、なかなか明確な回答をしない。実体験の話をしますと、ある米国人の販売業者から「この製品は日本で売れると思うか?」と聞かれ、私自身も素晴らしい製品だと思ったのですが、おそらく日本企業のスタイルからすると、斬新な業務改革を伴うことになるため、複数部門にまたがるその改革の責任者が誰になりそうか判別がつかなかったので、「わからない、何とも言えない、簡単ではないだろう」と言った意味の回答をしたところ、「『オヤジ』が原因か?」とストレートに「オヤジ」という日本語で率直な指摘をされ、私も思わず苦笑いしてしまったことがあります。
  • 「品質」への過度なこだわり。もちろん品質が良いに越したことはなく、品質が業務に耐えないレベルであれば購入すべきではありません。しかし、業務を個別のシーン(例えば画面の見栄えや手間のかかる操作)でなく、End -to-Endの全体で見た場合、そこまで大きな問題でもないのに、バグが多い、馴染みにくく混乱を招くといった否定的な評価をされることがあります。また、パッケージ製品を導入するとシステム的なパフォーマンスが低下する(処理が遅くなる)ので元のシステムに戻したといった話も聞いたことがあります。これもよく聞いてみると、対象業務システムをEnd-to-Endで見た場合、ボトルネックとなっているのがパッケージ部分ではなく接続先の旧来的な構造を持つ基幹システムにあリました。この場合、新たに購入するパッケージ製品を個別にチューニングして、旧来のシステムに合わせるべきなのでしょうか?
  • コスト削減にのみ関心を示し、パッケージ製品の活用を通じて得られる付加価値(顧客や受注の獲得など)を過小評価する。一般的に言って海外製のパッケージ製品は国内製品と比較すると高額になります。その理由の1つとして、海外製品は世界全体を視野に入れた機能をパッケージにしているため、日本だけを見た場合に必要とされない機能やサポートまでもが対象となっている点があります。しかし、これを長い目でみると、いわゆるグローバル・スタンダードを学ぶ良い機会になっている側面もあるかと思います。また、中でもマーケティングや営業系の機能に顕著だと思うのですが、それまで属人的だった業務をパッケージが提供するプロセスを用いて体系化することで、それまで見えなかった機会が見出されることが期待できます。これは従来からのコスト削減やIT予算の上限といった観点だけでは見過ごされてしまうことになりかねません。

これらは一例で、挙げ出すと他にもあるかもしれません。もちろん、いかなる場合でも海外からの第三者的視点で提供されるソフトウェア製品とその活用が常に正しいと言いたい訳ではありません。しかし、少なくともこのようなギャップの原因と対策を明らかにしていくことで、多くの日本企業の発展に寄与できると信じている訳です。

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