唐突ですが、皆様は何かを習得したり目標を達成しようと努力する時に、どうしても上達できない、達成できないなど、いわゆる「カベ」が立ちはだかり、これを乗り越えることができないと感じた経験を少なからずお持ちではないでしょうか?
日常生活においても、ビジネスにおいても、そのような「カベ」の打破は簡単ではないと思います。今回はこれに関するお役に立てそうなお話です。
そのような「カベ」を感じてしまう原因として、「ダニング=クルーガー効果」を基に説明したいと思います。これはその名の通り、ダニングさんとクルーガーさんによって1999年に発表された法則のようなものです。これを私なりに簡単に説明しますと、
- 何かを習い始める時、人は往々にして自身の能力を過大評価してしまう。「まだやったことないけど、他者の様子を見て、まぁ自分は人並みにできるようにはなるだろう。」といった具合です。
- そして習得過程において実際の習熟度が高まるものの、自己評価はそれほど高まらない。そのため、「こんなに努力しているのに、どうして自分は上達しないんだ?」と感じてしまう傾向がある。
- 一方、高度な熟練者は自身の習熟度やさらなる強化ポイントを明確に把握しているせいか、実際の習熟度よりも低く自己評価することがある。例えば、世界チャンピオンがインタビューで「まだまだ自分には課題があり、もっと努力が必要だ。」と発言するなど。
ということです。
習得の対象は、勉強でもスポーツでも、あるいはビジネス上のスキルでも共通して同じような傾向があることがわかっています。ウィキペディアでは、以下の通り、大学の試験における自己評価と実際の成績の相関図が例示されています。この図は横軸に熟練度合いに応じて対象者をグルーピングし(右に行くほど熟練度が高い)、縦軸に自己評価または実際の評価をスコア化して示したものです。▪️は自己評価、◆は実際のスコアとなっています。
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大学の試験における、自己評価による実績の平均値と実際の成績の平均値との相関図
出典: Wikipedia
このグラフでは▪️も◆も共に、一定の比例関係を示している訳ですが、自己評価▪️は勾配が緩やかで、逆に実際のスコア◆の方は勾配が急で、最も右側の熟達者のグループでは、▪️と◆が逆転していることがわかるかと思います。すなわち、最も左側の初心者グループにおける自己評価▪️と実際◆の乖離が最も大きく、習熟度が増すにつれ(つまり右側のグループに移るにつれ)乖離度合いが小さくなり、最終的には逆転してしまうということです。
「『辛い』と感じている時が一番成長している時」という言葉を聞いたことがあります。この現象はダニング=クルーガー効果から説明できると思います。つまり、こういうことです。何かの習得を始めた頃は実際のスキルよりも過大評価しているがあまり、他者と比較してもそれほど自身のスキルの低さは実感しないが、習得を進めることで実際にスキルは向上しているにもかかわらず、思ったほど他者には追いつけない。ここで「カベ」を感じてしまうのではないかと。そして、この「カベ」を打ち破って熟練の域に達した人たちは、その並々ならぬ努力の過程で自身の欠点をよく知りそれを克服してきたが故に、自身のスキルの習熟度を詳細に把握している。逆に言うと、「カベ」を打ち破り熟練の域に達するには、自身の習熟度合いを客観的に詳細に把握することが必要ではないかと。(もっともこれには別の見方もあるようです。それは、熟練者とは限らない他者も熟練者である自分と同等のスキルを持っていると思い込むがあまり、他者の長所を敏感に感じ取ってしまい、逆に自身の欠点に敏感になってしまうということです。これは例えば、入学試験会場や何かの選考会や試合などで競争相手となる他者が自分よりもできそう、強そうに見えてしまうという現象からも説明できると思います。ついでに言いますと、試験や選考会の感想を受験者に質問して、「あれができなかった、これができなかった、悔しい。」などと自身の負の部分を明確に説明できる人が往々にして合格していたり、逆に「まぁまぁできた。」「なんとかなったと思う。」と言わばぼんやりと回答する人は大抵不合格であるといったことからも言えることだと思います。)
さて、前置きが非常に長くなりましたが、本ブログの本題である日本型ビジネスのナゾを解明することと、この法則がどう関係しているかということですけれども、次のことが言えるのではないかということです。
私が提起している日本型ビジネスの3つのナゾ(IT部門のナゾ、付加価値創造のナゾ、グローバル化のナゾ)のいずれか、あるいはすべてについて、
- 関心を持たない人・企業は、その領域における「初心者」が多いのではないか。すなわち、自分・自社もその気になればすぐに他者・他社に追いつけると思い込み、すぐに積極的に取り組む必要がないと考えているのではないか。
- 実際に努力を続けているものの思ったほど成果が出ずに苦しんでいる人・企業は、実際には着実に実力が付いてきているにも関わらず、目に見える成果を実感できないがために正当な評価を得ることができない、あるいはそういった取り組みを諦めてしまうことになっているのではないか。
- これらのナゾを克服し、実際に成果を出している人・企業は、実際の実力を過小評価しがちで、自分・自社はまだまだ成功者と言えるほどの成果を出しているわけではないと感じているのではないか。
読者の中で、これは私(我が社)のことだと感じる方がいらっしゃいましたら、次のアクションが明確になったのではないでしょうか?それは、自身を客観的に知るということに他ならず、それを根拠に改善を続ける計画を立て、実践するということです。そして、おそらくは取り組む課題は思っているほど容易ではなく、「カベ」を打ち破るような多大な努力が必要となるが、諦めずに継続することが肝要ではないかということです。
その過程の中で、私が掲げる3つのナゾの根本原因も明らかになるのではないかと思います。
本日は以上です。この記事が何らかお役に立てれば幸いです。